気づくということ

 前回の健康コラムの「もっと利き手でない方の手を使ってみよう」を読まれて、実際に利き手でない方の手を意識して使ってみた感想はいかがでしたか?利き手でない方の手に気づくきっかけになりましたか?今回はその続編です。

 先日、こんな体験がありました。私はフラダンスを習っています。そこでは「踊りの動きをしていない手はスカートを握る」という約束があります。

 ところがある方は、右手だとスカートを握れるのですが、左手になるとスカートを握れず、ウエストの上に置かれていました。先生に何度も注意をされていましたが、なぜか左手だとスカートが握れません。もちろん、注意をされた時は気づくのですが、踊っている間は、左手がウエストの上に置かれていることにさえ気づけていませんでした。

 けれどもある時、踊っていて、鏡に写った自分の左手が見えたのです。

「あっ、見えた!!」

と、その方は叫びました。その時、初めてウエストに置かれた自分の左手を見て、脳が認識できたのです。それ以後は、左手も意識的にスカートを握れるようになりました。

 「気づく」=脳の活動です。それによって、脳に認識が生まれます。認識は、今の自分の体の動きや、その筋肉、皮膚、関節などの感覚に対してです。

 無意識でいても、脳と体のあらゆる部位にはそのような連絡(神経伝達)が行われているからこそ、私たちは動いています。ただ、その動きと感覚に気づくことが脳の刺激となり、活性化もし、体全体にも伝わります。そしてその働きにより、筋肉の発達や、痛みなどの不具合の改善が起こりますし、また、起こせるようにもなるのです。

 ですので、「ただ動かせばよいだろう」とか「動かさないよりましよね」といった程度の運動ではなく、体に気づきながら動かすと効果は格段に上がります。足や手の指を動かす、足指や足の裏を踏ん張って腰を伸ばして立つ、腕を上げるなどストレッチやちょっとした運動でも、その時の筋肉や関節の動き、感覚を意識しながら行う、といった具合にです。

 そしてこの「認識しながら体を動かす」ための鍵は、いかに体を大切に思うか、その心次第なのではないかと思います。

 例えば、目の前にとても高価なお茶碗があったとします。あなたはきっと両手で包むように持ち、丁寧に、そっと扱うことでしょう。では、自分の体はどうでしょうか?高価なお茶碗以上にこの世で大切なものを、意識して使っているでしょうか?

 私たちは無意識に行っている日常動作に慣れています。しかし、そのようなルーティン活動には、脳の活性がほとんどありません。

 ですから、「認識しながら体を動かす」ことで脳の活動が生まれ、さらに動きにも丁寧さが増していくのではないでしょうか。そして感覚もより敏感になり、動きが足りていないことで生じる筋肉の硬さや痛みも正しく感じるなど、体からのメッセージを受け取ることができるようになります。そのようなことが、「体の声を聴く」ことにも繋がるのです。日常の動作やストレッチなどのちょっとした運動にも、ぜひ脳を参加させてみてください。